古建築実習 その3

PA1642825日目:奈良から京都へ移動しながらいくつかの阿弥陀堂を見る。平安後期、末法への恐怖と極楽往生への希求に駆り立てられた貴族たちの信仰の場。まず木津の浄瑠璃寺は九体の阿弥陀仏を並べ祀る間口九間の長い本堂と池を中心とする浄土式庭園。宇治の平等院鳳凰堂は、丈六と呼ばれるサイズの阿弥陀座像を祀る堂としては最小規模の空間に裳階を廻し、下を吹き放ちにした翼廊と尾廊が伸びる。この鳳凰堂がきわめてピクチャレスクなのに対して、同じ丈六阿弥陀座像を祀る日野の法界寺阿弥陀堂はむしろ内部空間の強度が圧倒的。大スパンの四天柱で囲われる垂直性の強い空間は壁画や彩色に満ち、5間四方に割り付けられた庇上部の化粧小屋裏がさらにこの求心性を強調する。四天柱と庇柱とは筋が通らないが、正方形平面を入れ子にした二つの空間ヴォリュームのプロポーションは絶妙。いずれにせよ浄土への強い憧れがいくつかの空間形式をとって強烈に表現されているのを経験できる主題の明確な1日。他には宇治上神社(三棟の流造内殿を覆屋に収めた本殿、住宅風の拝殿が特徴)、そして行事のため主要堂宇に入れなかった醍醐寺に代えて万福寺(黄檗宗本山)を訪ねる。
6日目:最終日は滋賀コース。長寿寺は柔らかい意匠が特徴の中世密教本堂。双堂形式の名残をとどめて内陣・外陣ともに独立性の高い化粧小屋裏。向拝柱や垂木の面取、起りと反りが連なる桧皮葺屋根などが繊細で優しい。お隣の常楽寺は室町期の大型密教本堂。三重塔はいわゆる六枝掛のきれいに整備された枝割。園城寺三井寺)では光浄院と勧学院という寝殿造から書院造への過渡的な状態を示す客殿を特別に開けていただく。丁寧で分かりやすい説明を聞き、学生たちも対面空間の意味を実感した様子。石山寺は双堂をのちに統合した大型の本堂と美しい多宝塔。京都駅に戻って解散。

というわけで、6日間の古建築実習が終わりました。最初はどれが大斗でどれが肘木なのかも分からなかった学生たちが後半には自ら用語を使いながら建物の構造や意匠の特徴を読んだり議論したりしていました。記憶が消えぬうちに畳み掛けるようにモノを見せ、比較させるので、自然にリテラシーが身につくんですね。来年ももっと盛り上げていきますヨ。先生方、学生の皆さん、お疲れさま。

(写真は法界寺阿弥陀堂