新国立競技場問題、捻れた修正、みたび。

今日(2015.05.18)新国立競技場の整備問題に関して、下村博文文部科学相東京都庁を訪ねて舛添要一都知事と対談、そのなかで建設コストの抑制や工期短縮を目的に整備計画を見直すことを明らかにした、という速報が流れた(たとえばこれ)。要するに東京都に金を出してくれと頼みに行くに際して、実現可能性についてかなり不透明な部分が多いとも言われる新国立競技場の建設について、予算・工期についての現実的な見通しに沿った修正をすることを伝えた、ということのようだ。
速報記事では、「(1) 屋根は設けない」、「(2) 五輪後に5万人規模に縮小できるよう8万席の一部を仮設スタンドに」といった内容だったが、夕方、某新聞記者から大学を通じて取材申込があり、都庁にいるというその記者の話では、(1)は「観客席部分の屋根はむろんつくるがアリーナ上部の開閉式屋根を五輪実施まではつくらない」、(2)は「五輪後に常設6.5万人になるようにアリーナ寄りの1.5万席を仮設スタンドとする」ということらしい。
(1)は工期問題が大きい模様。要するに間に合わない。
(2)はまだよく分からないが、いずれにせよ条件として確認しておくべきは、オリンピックもラグビー・ワールドカップも、8万人とか屋根付きとかを要求してはいないということ。(以前に何度か書いたが)「8万・常設・屋根」の3点セットはFIFAがワールドカップのオープニングおよびファイナルに使うスタジムの基準としているもので、つまりJSC周辺(文科省の官僚や族議員たち)はいずれFIFAワールドカップを招致したい、少なくとも招致できるスタジアムを首都東京に国立施設として持ちたい、と考えているに違いなかろう。だが、FIFAは昨年9月の時点で2026年以降のワールドカップでは施設基準を6万人程度まで緩和する方針を発表しており、6.5万という数字はその辺も参照した上での決断のように思える(これは憶測だけど、でもその辺の裏なしには変更の決断はできないだろう)。
いずれにせよ、こうなることはある程度は予想されていたことで、ならば全体規模を縮小し、開閉式屋根をやめ、ザハのコンペ案にあった外部の流動的なペデストリアン・ウェイを回復すべきであった(と考えるのが筋でしょう?)。逆にいえば、とにかく「8万・常設・屋根」に拘泥した前提的枠組みのなかで案の魅力を決定的に損なう修正が行われ、最後にその前提そのものをぐっと緩めてしまっているわけで、それがデザインのクオリティや著作権をないがしろにしながら(個別的契約として問題じゃなくても、一般的・理念的には大問題である)、また公共財のあり方の決定に伴うありうべき政治的振る舞いを欠如したまま、進められてきていることが今回の修正でいっそうくっきりしてしまったかたちだ。

*何か進展があったら追記します。

[追記2015.05.18]最初5万という数字が複数の速報にみられたが、その後のニュースによるとやはり6.5万のようだ。たとえばこれ。ただ、このニュースでも屋根はまったく無し、流線型の特徴もなし、みたいな報道になっているけど本当か? この辺、まだ具体性を伴った記事が出ていないので何ともいえない気がする。いずれにせよ下村さんが情報を出したってことは、ザハも含めて関係各方面の協議(根回し)はむろん済ませた上での話だろう。

[追記2015.05.19]ここ(産経)に昨日の電話取材時の僕のコメントが出ている。「予想された修正。これまでも指摘されてきたことだし、現実的な方向への修正だと思う」、とこれだけ。実際、たんに現実的な対処を泥縄でしているだけだが、それこそが問題。電話口では批判的なコメントもしたけど採用されていない。新聞だからまあしょうがない。あと、どうもまだ屋根の変更の詳細がわからない。新聞買おう。

[追記2015.05.19]夜になったが依然として設計変更の具体的な内容がほとんど判明しない(新聞も読んだけど)。今日もTVやラジオから取材・出演の申込があり、電話口で言えることは言ったけれど出演は断った。JSCの公式発表を待つしかないのかな。

[追記2015.06.06]その後も情報小出しどころか言い訳じみた言葉がポツポツ出る程度で、やっぱり「屋根なし」なんていういい加減な言葉の、実際のところの詳細が分からない。