建築雑誌2012年2月号・特集 津波のサイエンス/エンジニアリング Tsunami Science/Engineering

cover_outline建築雑誌2月号が皆さんのお手元に届いている頃かと思います。実際には10日ほど前に刷り上がっているのですが、発送の段取り上この時期になってしまうようです。できるだけ前月末に発送できるよう検討したいと思います。

 さて今回の特集は、建築分野が(これまでほとんど手をつけずにきた)津波を急激に相手にせざるをえなくなった状況のなかで、少なくとも津波防災をめぐる土木工学の最前線をおさえつつ、それを建築がどう受け止めるうるのか(あるいは連携しうるのか)を整理しておきたいと考えました。また今号では土木分野のさまざまな最前線に立ってこられた/立っておられる専門家の皆さんに多数登場いただきました。この場を借りてあらためて心より御礼申し上げます。編集担当は、居駒知樹(日本大学)・田村和夫(千葉工業大学)・加藤研一(小堀鐸二研究所)の3方です。
 私たちはやはり大地につながって生きていくわけですが、ではどうつながればよいのかという問題は、まず工学的諸条件を踏まえて議論されるべきです。いうまでもなく災害は工学主義にイニシアチブあるいはヘゲモニーをとらせるように働きやすいのですが、地震の場合は最終的には建築物とか道路とか個々の構造物の強度とか制御性能の問題になる。しかし今回の災害では津波工学のはじき出すシミュレーションをにらみながら大地の上に一本の線を引き、エリアをまっ二つに分けるというように、都市・集落のマクロ・レベルに強力な論理として働きます。これは初めての経験でしょう。ただ、津波シミュレーションはプランニングにおける判断材料のひとつであるにもかかわらず、それを最上位に置いてから生業・生活といった諸条件を調整するという前提的ヒエラルキーが批判されにくいという問題(多くの条件をどう統合するのかという問いがあらかじめ落ちてしまう)があります。またシミュレーションそのものはパラメータをいじるたびに変化し、その感度(センシティビティ)は非常に高いそうですが、最終的には一本の線を引くという行為に単純化されざるをえないという、科学と工学のあいだの分断・飛躍という問題もある(そこに建築家はもっと多変数をデザインで解決するような回答をもって関与できないものだろうか)。東北大の越村さんが言われるとおり、社会が大地を占めるための「工学的諸条件」を明らかにしそれをまちづくりのコミュニケーションのなかに組み込んでいくのは当然のパラダイムになるでしょうが、そこに高いレベルのリテラシーを持ち込めるかが重要な気がします。
 さて特集の記事は基本的に津波発生・伝達から都市・集落レベル、土木構造物レベル、建築レベル、さらには漂流物といったところまでがカバーされていますが、表紙では太平洋全域スケールで3.11の津波がどのように振る舞っていたのかを図化しています。居駒先生のシミュレーション画像をもとに、デザイナーの中野豪雄氏にグラフィク化していただいたもの(→中野さんのサイト)。1) 地震発生から約7時間後の水面の起伏、2) 高さ10cm以上の波が到達した地理的領域、3) 波の到達時間、の3つが重ねられています。じっくり堪能ください。

 それから今号より、特集ページの後に下記の連載記事が掲載されています。「建築の争点」/「ケンチク脳の育て方」/「ケンチク脳の活かし方」/「地域いろいろ・多様な日本」。次号には「なぜ私は建築を選んだか」/「Architect Politician」(これらは両ケンチク脳連載と隔月掲載)が登場。ご期待ください。