村が消えた

本田靖春著『村が消えた:むつ小川原 農民と国家』(講談社文庫)はすごい本です。満州に動員され、引揚後は六ヶ所。二度の開拓に人生を費やした農民たち。満州よりはるかに厳しい条件での六ヶ所開拓は辛酸を極め、本書の中心的な舞台である下弥栄村(この名前そのものがむろん満州の痕跡)などでは、全国的にはほぼ貧困問題が解消した70年頃にまだ空き缶を茶碗がわりにするような状態だったのだが、あまつさえ(だからこそ)列島改造の波(むつ小川原開発計画)、つまり地上げによって村を根こそぎにされる。ところがその開発すら頓挫し(結局は燃料サイクル施設などの原子力施設が立地する)・・・という、そのすべての顛末を農民側の視点でこれ以上ないほど克明に描いている。東日本大震災も含め、戦後日本を考えるための必読書のひとつです。著者の本田靖春氏は、京城生まれということもあるのだと思いますが、やはり戦後社会を「戦争」に、そして戦争や植民地支配を遂行できてしまう「国家」と「国民」の問題につなぎとめて理解しなければならないという知性が力強い筆致となっている。『私のなかの朝鮮人』とか、『疵』とか、入手して読んでみたい。

ところでNHK朝ドラ「カーネーション」は出色の出来ですね。大好きです。でもやっぱり戦前篇がよかったななどと思う今日このごろ。というのは1950年代に何か変調がある気がするからなんだけど、別に上の話にこじつける気はないがやっぱり戦後的になり、戦前的なものが徐々に退場している。人物の交替もあるが、プロットも変わった感がある(理不尽でもそのようにしか生きられない人たちの騒々しい交錯から、近代的自我とか母子関係をめぐる心理的プロットにいくぶん構造化された気がする)。なんか野暮なこと書いて恥ずかしー。善作の血を受け継ぐ糸子と、体育会系三女に期待。