8th ISAIA Kitakyushu(第8回 アジア建築交流国際会議・北九州)成功のうちに閉幕。

2010年11月8日から12日にかけて北九州国際会議場磯崎新設計)にて開催された「8th International Symposium on Architectural Interchange in Asia」が終了しました。世界各国からの参加者の皆さんには無事に帰宅されますよう。そして実行委員会、とりわけローカルの委員と学生スタッフのみなさん、学会事務局の方々にはご苦労も多かったと思います。厚くお礼申し上げます。なお次回 9th ISAIA は光州(韓国)で開催されることが決定しています。
さて私自身はテーマセッションB「Flight Charts of Asian Architectural Historians」(アジア建築史家たちの航路図)を山根周(滋賀県立大)さん他の皆さんと企画し、当日(11月10日午後)はモデレーターをつとめさせていただいた。12年前の 4th ISAIA Kobe でも建築史の方法論に関するディスカッション・パネルを企画したのだが、その後大きく状況が変わった。アジア各国の研究者がそれぞれかなり活発・広範にアジア諸地域に調査研究に出ている。その状況を出し合ってある程度の全体像を描いてみること、それぞれの基盤的な背景を捉まえることがねらい。今後のアジア建築史・都市史研究の方向性(共同研究を含む)を展望するうえで、むろん高踏なヒストリオグラフィー(歴史叙述方法論)の議論も重要だが、その下部構造に相当する諸条件を共有しておくことは無駄なすれ違いや牽制を生まないためにも重要。スピーカー(パネリスト)は以下の5人の方々。

  • Zhang Song, from Tongji Univ., China 張松(同済大)
  • Lee Kangmin, Seoul National University, Korea イ・カンミン(ソウル大)
  • Shoichi Ota / Kyoto Institute of Technology, Japan 大田省一(京都工繊大)
  • Wang Wei-Chou / National Taipei University of Technology, Taiwan 王維周(台北科技大)
  • Heng Chye Kiang / National University of Singapore, Singapore ヘン・チェ・キアン(シンガポール大)

それぞれに概況のお話をしていただいたうえで、前夜の打合せで白地図に手で描いていただいた各国研究者の「航路図」を Apple Keynote で描き直して合成した図を提示した。当然ながらたいへん錯綜している。しかしディスカッションを通じて地図に描かれたヴェクトル(航路を示す矢印)の背景が国によって相当に違うことが分かってきた。個別の研究がたいてい大学や個人のネットワークで行われていることは間違いないが、それでも国家的枠組みが機能していることがありありと見えてきたことは印象深かった(これは必ずしも批判ではなく、国家という枠組みの存在を踏まえるべきことは今も変わらないということの確認)。たとえば台湾では90年代に台湾建築・都市のアジア的な位置づけを解明しようとするプロジェクトがはじまるが(華人ネット、先住民=オーストロネシア世界、植民地などの研究)、その後の政治状況は必ずしも「台湾」をフォーカスすることが中心ではなくなってテーマが流動化し、ある意味では弛緩、ある意味では自由な状況が出てきている。韓国では今も韓国建築史・都市史こそがコアであり、中国・日本の研究が必須なのはむろんだが、旧帝国および帝国主義国との歴史的・地理的関係の共通性という観点からヴェトナムが研究対象として注目される動向もある。中国では今のところ経済成長に伴う文化資産の調査保存や都市開発にあまりにも忙しく、国内の建築・都市文化の多様性もきちんと掬い上げられる状況にないが、個人レベルでは周縁的な文化や国際的ネットワークへの関心は高まっている。シンガポールはアジア全域にフィールドを持って組織的なプログラムを動かしているが、それはシンガポール自身の歴史性から来るハブ機能の展開とも言うべきもので、要するに研究者も学生も世界中から集め、彼らにエリアスタディーズ的なプログラムでスカラーシップ(学位)を授けることで、帰国した彼らとの間にどんどんネットワークを拡げている。さて日本人研究者はというと、大田さんが丁寧に解説してくださったように、(戦前からの諸経緯のあげくに)今や世界全域にフィールドを展開しているものの、そこに共有可能な枠組みもパースペクティブもなく、互いに没交渉な棲み分けが進んだという印象も強いだけでなく、留学生の受入が弱く、日本人が出て行ってドキュメントを持ち帰るという一方向性が(シンガポールと比べれば一層)強いことが明らかになったと思う。
というわけで以上はモデレーターをつとめた私の視点からの乱暴なまとめにすぎない。『建築雑誌』来年3月号(アジア特集としてISAIAをフィーチャーの予定と聞いています)ではより客観的な観点からのレポートが活字化されることになると思う。