「表現」を超えた模型:澤田研究室の1/10模型制作プロジェクトをのぞく。

PA083484前にもこのブログでちらっと紹介したのだが、うちの研究室の斜向いにある構法計画・澤田研究室の4年生の皆さんが吉村順三設計「軽井沢の山荘」の模型をつくっている(年内完成予定)。縮尺は1/10。1/10というのは構法レベルで実際の建築の成り立ちをほぼ再現しうるスケール。部材は原則的に一切さぼることなく再現する。そして驚くことなかれ、木部は木で、コンクリート部はコンクリートでつくる。僕が調査している台湾では、職人の領域が大きく「木工」と「土水」の二つに別れていて、木工は「大木」と「小木」に別れる(前者が建築の主体構造から造作まで、後者が建具や家具などを受け持つ)。同じ東アジア圏の日本でも(たぶん世界的にみてもだいたいは)基本的に同じだ。それは仕事で扱う材料とそれに根ざす仕事の性質が基本的に異なるからである。だから澤田研でも、4年生が二つのチームに別れ、それを設計監理者が調整しながらプロジェクトをマネジメントするかたちをとっている。
このプロジェクト、学生にとっては想像以上に複雑であり、また終わってみればきっと単純である。たとえば軽井沢の山荘の縮尺1/10の図面というものは存在しない。1/40くらいの図面から、徹底的な読み取りと相当の類推(これがまず圧倒的に重要であるに違いない!)により必要な模型原寸図を描く。そこから材を拾い上げる。材料を調査し、吟味し、発注する。木部は大久保あたりの経師屋さんにお願いしたのだとか。コンクリートの鉄筋には魚を焼く金網が採用された。型枠を組むのもなかなか難しい。澤田先生は「試行錯誤」の重要性を強調する。よい試行錯誤をすること、試行錯誤を設計することこそが、モノと現場の世界における基本的真理なのだと。実際、コンクリートはこれから打ち直しだという。
少し前に、進捗状況を見せてもらったとき、思わず、「美学が微塵も感じられないところが素晴らしい」と妙な感想を申し上げたところ、「それを今度学生たちに話してください」と言われ、おそるおそる本日のゼミにゲスト出演して学生さんたちとやりとりをした。本当は僕なんか構法的なことはまことに怪しいのではあるが、恥をしのんでお引き受けした次第。学生さんたちも「表現しようという色気がないのがいい」とか訳分からんこと言われても怒らずに真面目に聞いてくれた。たぶん写真では伝わらないのだが、実物をみると本当に「表現」などというチャチでヤワな水準を超えているのである。なるほど1/10とはそういうことなのかと思う。普通、スケールモデルというのは空間とかヴォリュームとか環境との関係とか、何か表現したいことに向かって媒体とその経済を考える(表現しないものを消す)。この模型は、そういう地平からズレているのである。ところどころに誤りも見つけたが、1/50とかの模型では誤りもクソもない。いや、本当に得難いものを学生さんたちは学んでいるのだろう。終わったときには色々なことがきっと簡単に見え、それゆえにまた問いに満ちた次なる世界が広がるに違いない。