東京藝大の講義「建築論II」終了。

今日は最終回。事前に履修生の皆さんがメールで送ってくれたレポートを読んだが、講義の骨組みをきわめて整然と跡付けてくれたものもあれば(全文掲載したいくらいである!)、僕の話のひとつひとつが実はかなり単純であることを指摘しながら、それがどんな連関を描き出すためであったかを鋭敏に捉えたものもあった(感度がよい!)。今日のディスカッションは、レポートから学生さんたちが抱いた素朴な疑問を取り出し、その疑問集をネタにテーブルを囲んで議論。学生さんたちがものを考え、語り合い、自分たちの居場所を模索するための道具として講義中の言葉をすでに使いはじめていること、そして何か足りないものがある、といった欲求を持ちはじめていることがよく伝わってきて、率直に嬉しかった。
以下は、講義各回の主題・キーワードと言及した文献のリスト。大雑把にいえば前近代的な「無自覚な文化」(アレグザンダー)の世界における、動的な平衡系としての生きた組織の成り立ちをどう読むかという問題からはじめ、それを突き破って変異を強いる近代以降の複雑化・大規模化・高速化が立ち上げざるをえなかった「自覚的な文化」における建築論の分裂を描いてきた。僕たちもその分裂の後にいるが、なぜそうであった(ある)のかを考え、明らかにし、引き受けながら、同時にある種のアーカイブ(知的ストック)として転用できる時代が来つつあるようにも思う。
あ、来年度もやります。

東京藝術大学 大学院 建築専攻 特論 建築論II 2015
主題・キーワード+文献一覧

[1] イントロダクション

第1部 アノニマスな環境世界を読む
[2] タイポロジー
建物類型論, 都市組織論(イタリアのムラトーリ学派、タイポモルフォロジー)・・・ティシュー、タイプ/トークン、連続/不連続(アナログ/デジタル)、タイプの普遍性と個別性、地形・サーキュレーション・構法、介入(者)=修復(者)、層化
陣内秀信『都市を読む:イタリア』(法政大学出版会、1988)
・黒田泰介『ルッカ一八三四年』(アセテート、2006)
中谷礼仁『セヴェラルネス:事物連鎖と人間』(鹿島出版会、2005)

[3] テクトニクス
構法類型論、環境構成の文化(ゼムパー山本学治、フランプトン)・・・テクトニック/ステレオトミック、軸組的/組積的、囲いと覆い、ウィトルウィウス、ロジェ、ゼムパー、近代建築(テクトニクスの消去→空間)、建物の進化(置換、加算、再解釈etc)、テクトニクスと環境
・K・フランプトン『テクトニック・カルチャー:19-20世紀の構法の詩学』1995(松畑強・山本想太郎訳、TOTO出版、2002)
山本学治『山本学治建築論集:造型と構造と』(鹿島出版会、1980/SD選書244、2007)
・太田邦夫『エスノアーキテクチュア』(鹿島出版会、SD選書253、2010)

[4] ダイナミクス
動的平衡とその破壊・・・系と外力、反応、持続/変化、自己複製、テクトニクス、所有(制度・観念)、相隣関係(慣習法→近代法)、スキマ、タイプの冗長性
・Stewart Brand, How buildings learn?, 1994
・N. John Habraken, Support, 1972
・清水重敦「都市に生まれたスキマ」(新建築住宅特集、2009)
・『すまいろん』2010年夏号 特集「動くすまい:流動的都市の原風景と未来」

[5] ディスカッション1
日本都市の歴史的な流動性・・・植え付けと再組織化(privatization)、都市の移動、建物の移動、解体移築、バラック(段階的再生)、動産と不動産、近代のインパクト(都市の資本論
・三好登『土地・建物間の法的構成』(成文堂、2002)
塚本由晴「ヴォイド・メタボリズム試論」(SD 2007)


第2部 近現代建築論の基礎
[6] モダニズム
機能主義と表象論の系譜、F-S問題(形式-内容の結合の恣意性)・・・未来派、社会意識、生産論・・・古典主義(アカデミズム)、要素主義(構成主義
・R・バンハム『第一機械時代の理論とデザイン』1960 (石原達二・増成隆士訳、原広司校閲鹿島出版会、1976)
・土居義岳『言葉と建築:建築批評の史的地平と諸概念』 (建築技術、1997)

[7] ディスカッション2
無自覚な文化/自覚的な文化、フラーの位置、国際様式、ダック/デコレーテド・シェド、中世主義、ルネサンスマニエリスムバロック、ピクチャレスク、ユートピア
・C・アレグザンダー(稲葉武司+押野見邦英訳)『形の合成に関するノート/都市はツリーではない』(SD選書、2013/前者の原著は1964)
ル・コルビュジエ 『建築をめざして』1923(吉阪隆正訳、鹿島出版会、1967)
・B・コロミーナ『マスメディアとしての近代建築:アドル フ・ロースとル・コルビュジエ』1994(松畑強訳、鹿島出版会、1996)
・H・R・ヒッチコック+P・ジョンソン『インターナショナル・スタイル』1932(武沢秀一訳、鹿島出版会1978)
・R・ヴェンチューリラスヴェガス』1972(石井和紘, 伊藤公文訳、鹿島出版会、1978)
・S・ギーディオン『空間・時間・建築』1941(大田實訳、丸善、1955)
・C・グリーンバーググリーンバーグ批評選集』(藤枝晃雄・上田高弘他訳、勁草書房、2005)

[8] リアリズム
コンテクスチャリズムの3つの磁場
イェール(ヴェンチューリ)、コーネル(ロウ)、イタリア都市建築派(タイポモルフィスト)・・・意味伝達の多義性、形態知覚の多義性、類型(タイプ)と集合的記憶
・秋元馨『現代建築のコンテクスチュアリズム入門:環境のなかの建築/環境をつくる建築』(彰国社、2002)
・『SD』1977年10月号/1978年3月号 特集「フォルマリズム・リアリズム・コンテクス チュアリズム」1, 2
・八束はじめ編『建築の文脈 都市の文脈』(彰国社、1979)
・R・ヴェンチューリ『建築の多様性と対立』1966(伊藤公文訳、鹿島出版会、1982)
・R・ヴェンチューリ『ラスベガス』1972(石井和紘・伊藤公文訳、鹿島出版会、1978)
・C・ロウ『マニエリスムと近代建築』1976(伊東豊雄・松永安光訳、彰国社、1981)
・C・ロウ+F・コッター『コラージュ・シティ』1978(渡邉真理訳、鹿島出版会、1992)
・A・ロッシ『都市の建築』1987(大島哲蔵・福田晴虔訳、大龍堂、1991)

[9] ディスカッション3
リアリズムと建築論の分裂・・・中世主義、地域主義、身体論、参加論、ダーティ・リアリズム・・・
・神代雄一郎研究室『日本のコミュニティ』(SD別冊、鹿島出版会、1977)
・元倉真琴『アーバン・ファサー ド』(住まいの図書館出版局、1992)
磯崎新+日埜直彦『磯崎新 interviews』(LIXIL出版、2014)
・八田利也『現代建築愚策論』(彰国社、1961/2011)
・都市デザイン研究体『日本の都市空間』(彰国社、1968)
・R・コールハース(鈴木圭介訳)『錯乱のニューヨーク』1978(筑摩書房、1995/ちくま学芸文庫、1999)
真木悠介現代社会の存立構造』(筑摩書房、1977/朝日出版社、2014)

[10] エコロジー
生きた系、動的平衡、系の進化、ミューテーション(変異)、・・・
・G・ベイトソン『精神と自然:生きた世界の認識論』1979(佐藤良明訳、思索社、1982/新思索社、2006)
・R. Banham, Los Angeles: The Architecture of Four Ecologies, 1971
・R・コールハース『ミューテーション』2001(TNProbe、2001)
・饗庭伸『都市をたたむ:人口減少時代をデザインする都市計画』(家伝社、2015)

[11]ディスカッション4
レポートを踏まえて議論