市ヶ谷出版の「対訳」シリーズはすばらしい。

Uchida_Construtction内田祥哉『現代建築の造られ方』(市ヶ谷出版、2002)はとても面白い本なのだが皆さんご存知だろうか。先日、学会大会で「「木造禁止」再考」というシンポがあって、あのときの内田先生の「日本型現場打RC造=木造」論+「型枠木材大量消費→外材依存化」論は非常にクリアで新鮮だったのだが、このうち前者は内田先生が以前から言われていたことである。そのへん、この本では実にさらりとこんなふうに書かれている。ちょっと抜き書きしてみる。

住宅公団が開発した初期の鉄筋コンクリートのアパートは、木製の型枠はすべて内地材を使い、現場の手づくりで造られています。同型の中層アパートが整然と並んでいる姿は、一見東ヨーロッパの大型パネルによるプレハブ団地のようですが、これが、プレハブではなく、一つ一つ現場の手づくり仮枠で造られたと知ったら、ヨーロッパの建築家はもちろん、後世の日本人も見て驚くかもしれません。
In the early reinforced-concrete apartment buildings developed by the Japan Housing Corporation, the wooden forms were all handmade of domestic wood on the site. Housing projects consisted of medium-rise buildings of the same type, arranged in orderly fashion. At first glance they resembled East European housing projects prefabricated from large panels. European architects and even later generations of Japanese are surprised to learn that those Japanese apartment buildings were constructed with forms hand-made one by one on the site.

ヨーロッパのRCの多くが工場打ちのパネルを組み立てたものであり、その背景に組積造の伝統があるのに対し、日本のRCは現場打ちコンクリートでその背景には日本の大工技術の高度さと裾野の広さがあると内田先生は指摘する。精度の高い仮枠ができるために、現場打ちRCであらゆる造形が実現され、狂いがないので打ち放しであっても窓枠などの造作もぴったり合わせられる。上部構造が世界共通に見えても、生産という下部構造において先行する体制を動員しなければ当の上部構造がスムーズに獲得されようはずがない。この種の構法上の世界史的位置づけがこともなげに多くのページで指摘されており、それが英語でも読める+英語でどう表現されるかも分かる、のである。私たちが「気づいていない」日本の建築生産の歴史的特異性が端的に短い文章で解説されためちゃ勉強になる本。学生さんは是非読んでください。

この「対訳」シリーズ、平井聖先生の『日本人の住まい』(市ヶ谷出版、1998)という一冊もお勧め。