たんなるメモ書きだけど、建築史家たちの世代的整理はたとえばこんな感じかなと。

 生年だけで一絡げにするのは乱暴だけど、まあ意味がないわけでもないだろうということで、4〜5つの世代グループに分けて、生没年と国をメモってみた。大事な人の漏れや、事実関係の間違いもあると思うのでご注意を。
       
[第1グループ/19世紀中盤生まれ]オーギュスト・ショワジイ(仏・1841-1909)。アロイス・リーグル(澳・1858-1905)。それからハインリッヒ・ヴェルフリン(スイス・1864-1945)、アビ・ヴァールブルク(独・1866-1929)。伊東忠太(日・1867〜1954)は彼らと近い。伊東がムッとしたバニスター・フレッチャー(1866-1953)も同世代。
 ちょっと時間の幅が広くていい加減なんだけどご容赦を。19世紀後半はドイツ・オーストリアを中心に美術史の基礎概念(知覚の形式の弁別)が組み立てられた時代。フランスのショワジイはフォルムを「技術の論理的帰結」と捉える視点を定式化。
       
[第2グループ/1900年前後生まれ]ジークフリード・ギーディオン(チェコ→スイス・1888-1968)、エミール・カウフマン(澳・1891-1953)、エルヴィン・パノフスキー(独→米・1892-1968)、ルドルフ・ウィットカウワー(独→米・1901-71)、ニコラウス・ペブスナー(独→英・1902-1983)、ヘンリー=ラッセル・ヒッチコック(米・1903-1987)、ジョン・サマーソン(英・1904-92)。堀口捨巳(1895-1984)はルイス・マンフォード(米・1895-1990)と同年で、足立康(日・1898-1941)、関野克(日・1909-)、太田博太郎(日・1912-)ら日本のモダニスト世代はその下。ちなみにバーナード・ルドフスキー(澳→米・1905-1988、エルンスト・ゴンブリッチ(1909-2001)、サヴェリオ・ムラトーリ(伊・1910-1973)が近い。
 ウィットカウアー、ゴンブリッチらはヴァールブルク研究所、ペブスナーもドイツ。ギーディオン(ヴェルフリンの弟子)やカウフマンはオーストリア。今更ながらやっぱりあの辺は震源として大きい。アメリカのヒッチコックとか次のスカリーなんかも概念枠組はやっぱりあっちから持ってきたんだろう。
 ありていにいえば近代建築確立→普及期に活躍する世代で、19世紀的基礎概念をモダン・ムーブメントに応用して権威づけたイデオローグとしての建築史家、というのがこの世代グループの特徴。だから次の第3グループの批判の標的になるのだけど、カウフマンやウィットカウアーはちょっと違う。

       
[第3グループ/1920年代生まれ]ブルーノ・ゼヴィ(伊・1918-2000)。ヴィンセント・スカリー(米・1920-)とコーリン・ロウ(英・1920-99)は同い年でライバル。レイナー・バンハム(英・1922-88)も同世代で、神代雄一郎(日・1922-2000)や稲垣栄三(日・1922-2001)はバンハムと同い年。レオナルド・ベネヴォロ(伊・1923-)、ロバート・ヴェンチューリ(米・1925-)、ジョセフ・リクワート(ポーランド→英・1926-)、あるいは村松貞次郎(1924-97)、桐敷真次郎(1926-)も近い。逆に浜口隆一(1916-95)や井上充夫(1918-2002)はちょっと先輩。
 戦後派世代(戦争中に勉強して、戦後に活動開始っていう世代)。欧米では、先行する第2グループを批判し今日の近代建築史理解の基盤と拡がりをつくったグループ。日本だと五期会世代だけど、日本が欧米とくらべて特殊なのは、この世代が近代建築史を事実上初めてまとめたわけで、ギーディオンやペブスナーを消化してモダニストイデオロギーを史観として定着させつつ、一方ではその批判をも同時に、あるいは直後に、自己批判的にやらなければならなかった面がある。ある種の「圧縮された近代」か。
 浜口や井上は第1・2グループのドイツ・オーストリア系の美術史を日本に導入した点で重要。

       
 ケネス・フランプトン(米・1930-)、ジャンフランコカニッジャ(伊・1933-87)、マンフレッド・タフーリ(伊・1935-94)はその下で、ロッシ(1931-)、磯崎(1931-)アイゼンマン(1932-)らが同世代。彼らが戦後派と68年派のあいだをつなぐ位置にいるので、第3’グループとしてみる。[20170519付記:佐々木宏・小能林宏城といった重要人物もこのグループですね。長谷川堯は第4グループに入れてみたけど、その兄貴分格という意味ではむしろ第3'としてもよいかも。]
       
[第4グループ/1940年代生まれ]アンソニー・ヴィドラー(米・1941-)、鈴木博之(日・1945-)・藤森照信(1946-)・陣内秀信(1947-)。ビアトリス・コロミーナは生年不詳だけど多分ここ。長谷川堯(日・1937-)は少し兄貴分だけどこのグループ。ウィリアム・カーティス(英・1948-)とかも。
 日本だと建築史プロパーだけじゃなく周辺の人々も含めて建築史・建築論的な爆発が70年頃に起きる。彼らが参照したのは、欧米でいえば第3もしくは3’グループの理論だろう。
       
 ちなみにヴィドラーの『20世紀建築の発明』(原題:Histories of the Immediate Present)は、2→カウフマン、3→ロウ、バンハム、3’→タフーリ、を取り上げている。さて、次に来るのは?