数年間の共同研究の成果、『明治神宮以前・以後』が刊行されました。

2009年より、藤田・青井・畔上・今泉を中心に、たくさんの方々のご参加・ご協力をいただいて進めてきた分野横断型の共同研究の成果が、鹿島出版会より刊行されました(担当は川尻大介さん)。装丁デザインは中野豪雄さん(nakano design office/本書の紹介ページはこちら)。左の書影(nakano design office 提供)から、全540ページのヴォリューム感と造本の誠実さが伝わることと思います(グラマラスなのに軽い!)。

《近代日本において国家的・公共的存在とされた神社。変貌してゆく都市や地域社会のなかで、それはどのような機能や特質をもつ空間として期待され、いかなる環境・風致・景観が創出されようとしたのか    。大正時代の明治神宮造営を大きなメルクマールと捉え、神道史、建築史、都市史、地域社会史、造園史などを横断しつつ、神社境内の環境形成をめぐるダイナミックな構造転換を描く。》(本書オビ)

(以下はわたし個人の表現ですが)明治神宮創建というプロジェクトは、近代「日本」の規定そのものに関わるようなナショナルでパブリックな空間をいかに組み立てるか、というモメントにおいて、国民、国家、帝国、天皇、宗教、公共性、都市、資本、技術、学知、美学・・・といったものをひとつの構造とイメージの下に束ねること、そうしてそれらの意味を再定義すること、だったのではないかと考えられます。国家運営を担う政治家・資本家・官僚・有識者・技術者らが行ったケーススタディとしての明治神宮プロジェクトがある種の総合的な「科学」の創出運動であったと回想したのは神道学者・内務官僚の宮地直一でした。実際、神社境内は明治神宮「以前」と「以後」とで大きく、構造的な意味での変化を遂げており、今日のわたしたちの眼前の境内環境イメージはその頃の地殻変動の結果がさらに広範に波及し自明化したものだと言えます。また、それはたんに神社境内の問題にはとどまらないでしょう。
 本書はこんなことを考えるための基盤をつくるものです。みなさま是非ご一読いただきご批判いただければと思います。

明治神宮以前・以後 ―近代神社をめぐる環境形成の構造転換
藤田大誠・青井哲人・畔上直樹・今泉宜子 編

鹿島出版会(2015年2月12日刊行) amazon  鹿島出版会

序説 近代神社の造営をめぐる人々とその学知(藤田大誠)

◆第1部 神社造営をめぐる環境形成の構造転換
◇第1章 神社における「近代建築」の獲得(青井哲人
◇第2章 戦前日本における「鎮守の森」論(畔上直樹)
◇第3章 帝都東京における「外苑」の創出(藤田大誠)

◆第2部 画期としての明治神宮造営
◇第4章 明治神宮が〈神社〉であることの意義(菅 浩二)
◇第5章 近代天皇像と明治神宮(佐藤一伯)
◇第6章 外苑聖徳記念絵画館にせめぎあう「史実」と「写実」(今泉宜子
◇第7章 森林美学と明治神宮の林苑計画(上田裕文)
◇第8章 明治神宮外苑前史における空間構造の変遷(長谷川香)
◇第9章 明治神宮林苑から伊勢志摩国立公園へ(水内佑輔)

◆第3部 近代における神社境内の変遷と神社行政
◇第10章 神田神社境内の変遷と神田祭(岸川雅範)
◇第11章 明治初年の東京と霧島神宮遥拝所(松山 恵)
◇第12章 近代神戸の都市開発と湊川神社(吉原大志)
◇第13章 法令から見た境内地の公共性(河村忠伸)
◇第14章 近代神社行政の転回と明治神宮の造営(藤本頼生)
◇第15章 近代神社の空間整備と都市計画の系譜(永瀬節治)

◆第4部 基礎的史料としての近代神社関係公文書
◇第16章 基礎史料としての東京府神社明細帳(北浦康孝)
◇第17章 「阿蘇郡調洩社堂最寄社堂合併調」一覧解題(柏木亨介)

末筆になり恐縮ですが、大事なことを二つ。
まず、本書はこれまで共同研究を組織・牽引してきた藤田大誠さんの無私の努力なしには実現していません。
また、本書の出版にあたって明治神宮国際神道文化研究所の助成を頂戴しました(編者のひとり今泉さんが在籍する同研究所にはこれにとどまらぬ様々な支援をいただいてきました)。
記して感謝します。