景観のアーキテクチャ:建築史学会2014年度大会シンポジウム

2014.04.19 Sat. 建築史学会2014年度大会京都工芸繊維大学。下記のシンポジウムに登壇。

記念行事
シンポジウム「“町並み”か“景観”か―町並み・集落・都市・景観保存の現在と建築史学―」
司会 中川理(京都工芸繊維大学
趣旨説明 大田省一(京都工芸繊維大学
報告
1.溝口正人(名古屋市立大学)「町並みから見た景観:伝建制度のもとで」
2.清水重敦(京都工芸繊維大学)「文化的景観の視点から見た町並みの読解とその保全
3.青井哲人明治大学)「都市史研究から見た町並み・景観」
討議 溝口・清水・青井+大田・中川

 企画は清水重敦さん。文化財の枠組みとしての重要伝統的建造物群保存地区(伝建)重要文化的景観の二つが主題。
 この二つを同じ土俵にのせて議論する、というのが今回のポイントのひとつ。制度としては1975年の文化財保護法改正以来、また実態としての町並み保存運動という意味では1968年前後からの蓄積をもつ伝建は、建造物を「群」と捉え、建物が織り成す組織の保存ということで出発したが、対象がいわばエリート級の町並みに限られていた初期の状況に対して、徐々にその枠を広げてくるなかで、今や伝統的建造物は相当限られていても面的に保存修景するようなものへと移行しており、それゆえ町並みの骨格あるいは本質的なアーキテクチャーは何なのかという問いが調査のなかでかえって包括的に問われるようになっている。一方の文化的景観は2004年公布・2005年施行の文化財保護法改正をもとに進められているもので、cultural landscape、すなわち人間と自然がとくに生産を介して結合する、そのありようがどのような景観(地表を覆う物的組成)をなしているかを捉え、継承しようとするものだが、その性質に加え、まだ若い制度であるだけに、やはり生活世界の景観を貫くアーキテクチャの捉え方はまだ試行錯誤のなかで柔軟な包容力をもっている。
 もうひとつのポイントは、行政施策上の実践と都市研究とをひとつの土俵にのせること。上記の二つの枠組みは、おおむね、都市組織論(+建物類型学)と圏域論(テリトーリオ)との関係に対応するともみなせる。都市組織論は地型+建物の「群」を組織(織物)として捉えていくものだが、テリトーリオはたんなるスケールの拡大ではなく、視点の質的な拡張や転換を含むべきものだし、またテリトーリオの視野を獲得した上でそこから都市組織へとスケールを落とすときにも同様の緊張をはらむのでなければ意味がないだろう。こうした関係が、伝建と文化的景観のあいだにも意識されてよいはずだし、また、伝建や文化的景観の実践が都市史研究にもたらすアカデミック・インパクトも議論の主題になりうる(私の報告の役割は、およそそんなことを考える視点を提示することにあった)。
 ・・というような、二つの軸を交差させるマトリクス上に展開されたシンポであった。いかにも地味だが、さすが清水さんの企画だけにこうして振り返ってみるとよく出来た設定である。
 それにしても溝口正人さんの足助(愛知県)の伝建調査は本当にすばらしい。きわめて総合的・構造的な町並み理解の方法を提示されている。そして清水さんの宇治(京都府)の文化的景観調査は、清水さんらしい発見的な実践性を含んでおり、挑戦的である。都市研究者としてうかうかしてはいられないと思った。と同時に、是非お二人の現場を学ばせていただきたいと心底思った。要はアーキテクチャの捉え方であり、その観点があればインターベンションも戦略的でありうるだろう。