建築雑誌2013年8月号・特集「アジアン・ハウジング・ナウ:Asian Housing Now」

cover_201308 報告遅くなりすみません! 8月号はアジアのハウジングの現在をまとめる特集で、担当は寺川誠司(近畿大学)・初田香成(東京大学)。

 前言にも書いたが、おおむね1980年代、あるいは1990年代はじめくらいまでは、何人かの著者によってアジアのハウジングの状況は日本に伝えられていた。座談会への登壇をお願いした、ホルヘ・アンソレーナ氏(『スラム民衆生活誌―アジア・ラテンアメリカの貧困』明石書店1984 他)、穂坂光彦氏(『アジアの街 わたしの住まい』明石書店、1994 他)はその代表。布野修司『カンポンの世界』(Parco出版局、1991)もハウジングが主題。また、1982年創刊の雑誌『群居』は、そもそもアジアのハウジングネットワークをつくる媒体たることをひとつの主眼としたもので、いくつかの関連特集も組まれており、セルフヘルプ系のアプローチと、これにかかわる技術の問題群が扱われていた。セルフヘルプ系は一方で『都市住宅』誌のひとつの底流でもあったように思う。こうした主題群は、1970年代にはじまる。
 1970年代にはじまり、1980年代まではそれなりの関心や期待とともに日本にも伝えられていた思想と実践の系が、その後、どのように継承されているのか、あるいは忘却されているのか。それがよく分からない。
 『建築雑誌』では、前編集委員会で制作された、特集「未来のスラム」(2011年1月号)があり、主題はアジアだけでもハウジングだけでもなかったが、マイク・デイヴィスによる『Planet of Slum』 (2006)の邦訳出版(酒井隆史・篠原雅武・丸山里美訳『スラムの惑星』明石書店、2010)のインパクトを受けた特集として記憶に新しい。ターナーらの1970年代のセルフ・ヘルプ・アプローチが、むしろ(帝国主義的な)ネオリベラリズムとの親和性を持っていくことが指摘されたこの本には僕も大いに興味を惹かれた。はたして、70年代的問題系はいまどのように組み替えられているのだろうか。
 近年の動向のなかで、東南アジア・南アジア等のメガシティではスラムの肥大化が起きる一方で、中間所得層の人口も大きくなり、従来、富裕層か低所得層(スラム)かに二極化していた問題構成の「中間」が見えている。一方で日本、韓国、台湾などでは低所得層(若年層と高齢層)のハウジングがいよいよ課題として浮上しており、それが市場原理のなかで不動産を細分化させるような適応を生んでいる。つまり、アジアのハウジングは私たちにとって、「先進国」の高みから見下ろすような対象ではなくなり、グローバル経済とその局地的顕在化という共通の枠組みのなかで、互いに交錯するヴェクトルを見据えながら、互いに学び合うようなものになりつつあるのではないか。そんなことを編集部では考えた。

 今回の特集は、しかし何といっても主担当の寺川さんが構築してきた広いネットワーク(アジア全域に広がるハウジング+まちづくり専門家のつながり)がなければ成立しなかった。ま、おかげで完成までホントにハラハラさせられたわけだけど(笑)。寺川さん作成の「アジアン・ハウジングと Young Professional の挑戦」は、マニラで開かれたCommunity Architects Network への参加報告でもあり、豊富なヴィジュアルも交えた生き生きとしたページ。