建築雑誌2013年1月号 特集 福島と建築学 Fukushima and Architecture

cover_201301日本建築学会発行『建築雑誌』2013年の新年号は、渾身の福島特集です。

建築からの福島へのアプローチがまだまだ少なすぎる、それが、特集タイトルを「福島と建築学」とした理由。なぜ少ないのか。もちろん放射能汚染のため調査などに入りにくいということもあるが、しかし福島には広い意味での建築学の出る幕がない、あるいはきわめて限られているように見えるからではないか。ならばできるだけ具体的で確かな情報を集めつつ、その「出る幕」を模索すること、あるいは足場のように仮設的にでも組み立てることが必要なはずだ、というのが企画主旨。

担当は饗庭伸(首都大学東京)・近藤卓(近藤卓デザイン事務所)のお二人。タイトル・主旨ともに饗庭先生からの提示ではじまった特集だが、内容を練り上げるにあたっては、鈴木浩(福島大名誉教授、明治大学客員教授)・浦部智義(日本大学)・芳賀沼整(はりゅうウッドスタジオ)の三氏に大いにご協力いただいた。また、楢葉町役場、浪江町役場、まちづくりNPO新町なみえなどの多くの方々に、取材や現地視察などでお世話になった。

私自身は昨夜帰国し、たったいま出来上がった1月号を手にとったところ。ずっしりと重い、充実した特集になったと思う。皆さんに感謝しなければならない。中野事務所のグラフィックも気合い入っている。

さて、建築は通常、その計画・設計がはじめられる基礎的な諸条件がセットされた「後」に出番が来る。むろん設計条件をつくる(設計の問題をたてる)ことが我々のより本質的な仕事だが、それも「空間」と「時間」について一定の量的限定がなければなかなか手が出ない。基本的には資金等のリソースがこの二つを決める要因になり、空間は「土地」、時間は「工期」や「償却期間」などとして固められる。災害はとくに「時間」を固めにくくするが、つまるところ国費を投入してそれを固めているのだということにも気づかされる。

でも福島では金がいくらあっても「空間・時間」は固まらない。見えない放射能汚染によってそれらが宙吊りになり、政治がそれを固める方向に動かない。

個人的な回想になるが、昨年6月、芳賀沼さんと浦部先生の「中期仮設住宅」のアプローチに出会って衝撃を受けた。これで色々なスキームの概念が組み変わると思ったからだ。今回の特集でいえば、糸長浩二先生の小集団移住支援や藤原徹平さんの前線-兵站的な論理などもそうだが、リアリティをもった構想は、「場所・時間」そのものをメイク・シフト的に現実化し、それを足場として次のステップを連鎖させ、順次ゴールを絞り込んでいくようなやり方なんだと思う。そのように考えるとき、実はほかの何よりも建築的なチエとワザこそが出番なのだという気がする。(建築家は時に、「空間×時間」を固める基礎的な量を一定の科学的分析からセットすることによって構想を描いた。ボアザン計画や東京計画1960等がそうだが、一挙に描かれた完成形は現実に対するユートピアとなる。対して、メイクシフト的アプローチは量的諸条件を長中期と短期とに二重化して設定することで現実への足場をつくれる可能性がある)。

饗庭先生もブログに特集担当者としての感想を書いていらっしゃいますので是非お読みください。→ 「都市をたたむ技術:都市計画のこれからとかいろいろ:都市計画学者/プランナー:饗庭伸の日記」
饗庭先生・近藤さんご担当お疲れ様でした。