日本建築学会都市史小委員会シンポジウム・都市と表象シリーズ・第3回「消費と生産」

2012.12.20 Fri. 10:00〜17:00 表記のシンポジウムが田町で行われました。

日本建築学会都市史小委員会シンポジウム・都市と表象シリーズ・第3回「消費と生産」
日時:2012年12月20日(木) 10:00〜17:00
会場:建築会館3階会議室

司会:松本裕(大阪産業大学) 副司会:栢木まどか(東京大学
10:00〜10:10  主旨説明: 岸泰子(九州大学) 
10:10〜10:50  報告1: 近世ヴェネツィアにおける劇場の商業化/青木香代子(東京藝術大学
10:50〜11:30  報告2:ソウルの商業空間 −本町を中心に−/金銀眞(東京大学
11:30〜11:50  コメント: 石田潤一郎(京都工芸繊維大学
休憩
13:00〜13:40  報告3: 消費される城壁と生産されるショップハウス−城壁解体から見た近代バンコクの都市開発とキャピタルゲイン−/岩城考信(呉工業高等専門学校
13:40〜14:20  報告4: 植民地下台湾における建材流通の転換と都市空間 〜 都市建築の変容の一端/青井哲人明治大学
14:20〜14:40  コメント: 大田省一(京都工芸繊維大学
休憩
14:50〜15:30  報告5: 都市の災害と消費/田中傑(東京理科大学
15:30〜16:10  報告6: 権威と消費 −安政度内裏還幸と町/岸泰子(九州大学
16:10〜16:30  コメント: 中島智章(工学院大学
16:30〜17:00  全体討論

空間構造と社会構造は「所有」を通して緊密に結びつき合い、「社会-空間構造 socio-spatial structure」を形成するが、したがって「所有」の契機をつくる「生産」「消費」は、都市史に迫る有効な方法になる。6題の報告はそれぞれに異なる時代・地理的領域を扱い、異なる視点を提供していて大変勉強になった。密度の高い一日だった。
 私の報告は、都市建築の材料に着目して、その「生産-流通-消費」から都市景観の形成をみる視角を得る試み。1932年台湾総督府刊行の調査報告書で、家屋の主たる建材について、台南州高雄州では「竹造」がそれぞれ66%, 55%を占めるという結果が出ているが、竹造家屋の存在感はいまやほとんど忘れられている。ところで、竹、土确(日干煉瓦)、煉瓦、セメント、そして台湾桧(扁柏・紅桧)、福杉(福建産杉材)・・といった建材を思い浮かべてみると、その「生産-流通-消費」は、それぞれに異なる担い手・圏域・様態をもっており、それらが、「消費」という局面において建主のもとに集められ、アッセンブルされて生活世界が構成されるのである。
 そこに、社会の各階層にとっての各建材へのアクセシビリティ(アフォーダビリティ)の問題が絡む。日干煉瓦はそもそも市場流通ではないので近くで適当な泥が採れなければつくれない(自分の水田という資本を消費して建物を生産する)。竹もかつては平野部・丘陵部を問わずそこいらに竹林が繁茂していたので市場流通の必然性は弱かったのではないかと思うが、1930年頃は丘陵部から低地部へと河川で竹を流して売る仕組みが各地で実在した。台湾を開拓した漢人たちが人工的に植林し、管理しながら消費してきた竹薮が、植民地支配のもとで収奪・開発され、またマラリア対策という衛生政策により一掃されていくことで、丘陵部を産地、低地部を消費地とする「生産-流通-消費」の市場構造が発達していくのではないかと推測している。台湾桧は1906年に発見され、1914年までに開通した阿里山鉄道、林場と製材所の集積、資本と労働者、鉄道と蒸気船の流通網といった体制のもとにあり、台湾人は中流層以上ならば化粧材として家屋に使うようになる・・・といった具合である。
 こうして、環境史的な大きな枠組みに権力と社会構造が絡み、建物のありようが変質したり固定されたりする、そうしたダイナミズムが描けるのではないかと思う。
20121220_uh_symposium.001