柵の隙間で館を建てた。

ロバート・カプラン著(松浦俊輔訳)『ゼロの博物誌』(河出書房新社、2002)を読んだ。「ゼロ」は、思考の抽象度が上がる(形式論理の世界へ一歩近づく)ときに介添え人として働き、同時にその論理世界のなかに自らの位置を獲得していく。というような歴史を隠喩と寓意を織り交ぜながら綴った本。
「接続詞(and, or, but)も物の名として扱うことにしたら、世界がこれらの新住民で豊かになり、これまで不透明だった概念が突如として透明に見通せるようにな」る、「そうした見通しをもたらしたのが物と物をつなぐ仲介人という少々あやしげな存在だからというだけのことで、こうした見通しを捨てるのはもったいない」(同書p.236)。

昔、杭に木を渡しただけの柵で、こちらから向こうを眺める隙間があった

建築家がこの眺めを見て、ある夜とつぜん柵に近寄った

柵から隙間を切り取って、その隙間で館を建てた。
(詩:Christian Morgenstern 1905 松浦訳同書p.237より)

ぼくもうちの研究室の学生さんたちもこの建築家みたいなことをやっていますね、たぶん。