ベトナムより帰国しました。

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ハノイでは旧市街(中部のホイアン、フエとも、計画性の南部の強いサイゴンとも異なる、まさに管建築 tube house と言うべき狭く深い町屋が個別に更新してきたプロセスの堆積としての都市組織)のあらゆる意味での密度・濃度の高さに驚き、また、フランス極東学院を前身とする歴史博物館でベトナム史をとくに中国史との関係で整理し直し、さらにベトナム社会を構成する数十の民族文化を展示する民族学博物館の充実振りに唸る。とくに民族学博物館の屋外に再現された実物大の家屋はなかなかのもので、その構法的・意匠的な力強さとともに床レベルや間仕切りに繊細な処理を読み取るのに躍起になっていたら丸一日過ぎてしまった。コートを着て凍えながら鍋をつついていたハノイから、再びTシャツとビールのサイゴンホーチミン)に戻り、最終日(1月8日)はせっかくなので予定外だがメコン・デルタへ日帰り。川沿いに並ぶ杭上住居群 stilt houses および川面に浮かぶ筏上建物群 floating houses を眼におさめる。上の写真はココナツの皮を削ぐ作業場から対岸の半杭上住居群を見たもの。ミルクキャラメルのような色をした川のうえを、砂利・煉瓦・木材などの建設資材のほか、米や果物などが行き交っていた。夜はサイゴンに戻ってベンタイン市場脇の夜市でベトナム最後の食事とビールを楽しみ、同日深夜の飛行機で9日早朝に帰国。
初めてのベトナムだったが各都市あるいはその近郊の住宅を不動産・都市組織のレベルから生活・身体のレベルにいたるまでそれなりに実感することができ、色々と眼を開かされることの多い旅になった。調査の主目的に関してとくに印象深かったのは、周辺的・重層的文化における、身体とモノ(床や壁、棚や台や敷物など)との諸関係を決める形式の多様さ・繊細さで、それが儀礼や社会のヒエラルキーに関係していそうな点では王朝の存在も当然ながら気になった。もちろんまだ断片的で直感的にすぎないし、ベトナム史は相当に錯綜していてとても僕には掴める気がしないが、ともかく朝鮮半島や日本とも共通する感覚だ。いま台湾で進めている研究にもひとつの参照軸になるだろう。