ミナレットとミサイルと・・・

スイスでミナレットアラビア語で塔の意)の建設を禁ずるよう憲法改正を求めるイニシアティブ(発議・請求)が11月29日に国民投票で可決されたというニュースを、数日前にBS2のワールドニュースでみた。驚いた。ちょうど西洋建築史の授業でモスクについて喋ったところでもあったし。ネット上で海外の報道をいくつか斜め読みしてみたが、可決のハードルは非常に高いのでさらに驚く。報道の内容もかなりすごい。建築と政治や宗教との関係はあちらでも意外にあやふやで危ういみたい。
2005年に Wangen bei Olten で申請されたトルコ文化協会の高さ6mのミナレット建設計画に対して近隣住民が反対し、役所も申請を受け付けないなどの悶着の末、裁判所は役所の対応を認めず、2009年7月にこのミナレットは竣工した。この手の案件は他にもあるらしく、2007年に右翼のスイス国民党員たちがミナレット反対のキャンペーンを開始。選挙運動も絡んでかなり過激な論調もあった模様。署名を集めて国民投票へ持ち込んだ。急進的フェミニストなども支持。一方、カトリックの司教も、連邦政府も、議会も、財界も、反対の立場だったようだ。それでもキャンペーンが成功したのは、金融危機後の移民労働者への国民の警戒心を背景に、イスラーム勢力拡大の脅威をあおったためだろうか。国民投票の強さでもあり弱さでもあるということかな。しかもスイスでは投票結果の司法審査はないらしい。

投票を呼びかけた国民党員の言い分は、ミナレットイスラームの信仰には不要で、クルアーンコーラン)などの聖典にも記載はなく、ただイスラームの法的領土たることを宣言するシンボルであるというもの。宗教と法、宗教と政治を分離して、宗教はむろん自由だが、ミナレットは法や政治であるから禁止しろ、ということだろうか。そんな分離に正当性はあるのだろうか・・。いやヨーロッパの世俗主義(secularism)、つまり政治の宗教からの独立を求める意思の逆説か。また急進的フェミニストにとってはイスラームはすなわち女性を抑圧する社会ということらしく、ミナレットは男性支配の象徴だとすら言われてしまうようだ。ミナレット、ミサイル、銃、そして男性器? 色んな報道を読むと、こういう連想はひょっとしてありふれたものなのかもしれないという気がしてきた。

ちなみにスイスには現在4本のミナレットがあり、これら既存の4本は憲法改正の影響を受けないらしい。それからミナレットとは、基本的には、都市におけるモスクの目印であると同時に、1日5回市民に礼拝の呼びかけ(アザーン)をするための塔ということでよいと思う。