孫徳鴻さんと出かける。

注射が効いたのか体調回復。1月1〜2日は、台湾では舌鋒鋭い批評家としても知られる建築家・孫徳鴻さんにお誘いいただき、孫さん夫妻(+犬のキキ)とうちの夫婦とで南投県埔里鎮・魚池郷などに出かけた。気鋭の中堅建築家として一目置かれる孫さんは現代台湾の建築の問題をきわめて広い地平で考えている希有な人物で、近年は農業の問題に取り組んでいる。この日は彼の大学時代の同期生である王元山さんを訪ねてこの台湾中部の中山間地域へやって来たのだが、この地は茶を中心とした農業の921地震(1999年9月21日の台湾中部大地震のことを台湾ではこう呼ぶ)後の復興過程が注目されている。王さんにとってこの地は地元であり、まさに農業を通じた総体的な地域づくりの現場で奮闘中。私たちの共同研究者・陳正哲さんの大学での同僚でもある(会ってはじめて知って驚く)。
孫さんが農業に関心を持つのはもちろん今日のグローバル経済と食糧問題が背景にあるが、もう少し具体的には、国の農業政策の転換で、農地の宅地転用に関する大幅な規制緩和が行われてかなり激しい農地蚕食がおこっており、建築家もこれに加担していることを問題視するがゆえである。台湾は国土が小さく人口密度が高い。明らかな農業地域でも山間部でも、都市在住の富裕層がセカンドハウスを求めて農地を食い散らかしてしまうのだという。ちょうど大野秀敏+アバンアソシエイツ『シュリンキング・ニッポン』(鹿島出版会、2008)を読んだばかりだったので、日本以上に出生率の低い台湾の都市縮退はそのまま国土的な問題になってしまうことを直感した。
2日間にわたって彼の運転に身をまかせて旅のおともをしながら、彼と様々な議論をした。もっとも大半は世間話をしたり冗談を言い合っているのだが、話題が琴線にふれるたびに彼のなかで怒りがこみあげてきて批評家に転ずるのが分かる。学生たちとのスタジオ課題も彼の幅広い問題意識に直結したユニークな問題を立てていて面白い(台北の大学でスタジオを教えている)。近いうちに何か一緒にできることがあると思う。