西洋建築史10/合理の神秘〜ルネサンスの思想と造形

1203 ルネサンスの要点は、まず古代(antiquity)が古典(classic)として発見されたことにある。現在は、典拠としての古代の再生として位置づけられ、両者の「あいだ」の空隙が中世とされる。これは時間のデザイン(歴史)に他ならない。時間というものは、おそらくただ真上に積み重ねられるだけでは歴史としての自覚化には至らないのだろう。だからこれは偉大な発明だった。しかし、ルネサンスの人々が時間を折り曲げて現在を古典に重ねるという意識構造を生み出してしまったために、以後の新しさ(時間の進行)は過去への態度を組み込まずにはつくれなくなってしまった。むろん、「現在」の意義も変わってしまったに違いない。

もうひとつの要点は、たとえば振動数が整数比になる音の合成が美しく感じられること(和音)が示すように、「合理」(理に適っていること)が「美」を生み出すということへの驚きと信頼。つまり合理→美という回路自体は説明しがたいが、それゆえにこそ人智を超える意思の働きがそこにあるとしか言えないのだ。この意味で合理を信奉することは一種の神秘思想に他ならないのであって、そうでなければ平面も立面も断面も整数比で統御せずにおれないルネサンス建築のパトスは理解しえないだろう。しかし、建築家はこの人智を超える意思を復元的に再生産しうる職能者なのだと考えられたわけで、これまた恐ろしい発明には違いないのである。